大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岡山地方裁判所倉敷支部 平成3年(ワ)125号 判決

原告

甲野一郎

有限会社甲野

右代表者代表取締役

甲野一郎

右両名訴訟代理人弁護士

河田英正

被告

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

雨宮泰彦

右訴訟代理人弁護士

田中登

和田朝治

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  申立て

一  原告ら

1  被告は、原告甲野一郎に対し、金二四五〇万四〇〇〇円及びこれに対する平成三年五月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告有限会社甲野に対し、金六三三万五〇〇〇円及びこれに対する平成三年五月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告

主文と同旨

第二  主張

一  原告らの請求原因

1  損害保険契約の存在

(一) 原告甲野一郎(以下「原告甲野」という)

原告甲野は、被告との間で、同原告を保険契約者兼被保険者、被告を保険者とする次の内容の損害保険契約を締結した。

契約日 平成元年一一月二五日

種類 店舗総合保険

保険期間 平成元年一一月二五日から平成二年一一月二五日午後四時まで一年間

保険金額 六七〇〇万円

保険の目的

イ 浅口郡〈番地略〉所在の鉄骨スレート葺平家建倉庫に収容してある商品・原材料一式

ロ 浅口郡〈番地略〉所在の鉄骨スレート葺平家建作業場(以下「本件建物」という)等建物三棟とその中に存する商品・機械等一式

(二) 原告有限会社甲野(以下「原告会社」という)

原告会社は、被告との間で、同原告を保険契約者兼被保険者、被告を保険者とする次の内容の損害保険契約を締結した。

契約日 平成元年一一月二五日

種類 店舗総合保険

保険期間 平成元年一一月二五日から平成二年一一月二五日午後四時まで一年間

保険金額 六五〇万円

保険の目的 本件建物に収容してある商品一式

2  保険事故

平成元年一一月三〇日午前零時三〇分頃、本件建物から出火し、同建物等とその中にあった商品・原材料・機械一式をほとんど焼失した(以下「本件火災」という)。

3  損害

(一) 原告甲野

原材料〈以下省略〉 五三五万三〇〇〇円

機械〈以下省略〉 一二四〇万円

建物〈以下省略〉 五〇〇万円

解体撤去費用 一七五万一〇〇〇円

以下総計 二四五〇万四〇〇〇円

(二) 原告会社

(商品)〈以下省略〉 六三三万五〇〇〇円

4  よって、被告に対し、原告甲野は保険金二四五〇万四〇〇〇円、原告会社は保険金六三三万五〇〇〇円、及びこれらに対するいずれも訴状送達の翌日(平成三年五月二日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1・2項は認める。

2  同3項は否認する。

三  抗弁

1  保険契約の出火原因には不審な点がみられ、損害についても不実の申告がされているばかりか、以上のように、本件の保険契約締結の経緯が不自然であること、当時、原告らが経営に行き詰まり多額の負債を抱えていたこと等の事情に照らすと、本件の保険契約は保険金の不正取得を目的として締結されたものであって、公序良俗に反し無効というべきである。

(一) 本件の保険契約締結当時、原告甲野は、金融機関や取引先に合計四〇〇〇万円以上の負債があり、すでに平成元年一〇月一一日には資金不足で手形の不渡りをだす等、経営は行き詰まっていたうえ、本件建物の所有者である訴外乙川太郎からは同建物の明渡しを求められていた。

(二) 原告甲野は、経営不振から、従来本件建物につき被告との間に締結していた火災保険や保有車両の自動車保険を期間満了により失効させていたにもかかわらず、急に本件の火災保険の加入申込みをし、しかも、保険金額を倍増し、従来保険の対象としていなかった工場内の機械類にまで保険を掛け、あまつさえ、同時に農業協同組合の火災共済にも加入する等、本件の保険契約締結の経緯には不自然な点がみられる。

そして、本件は保険契約締結の五日後に火災が発生している始期接近事案でもある。

(三) また、原告甲野は、本件の保険料を小切手で支払ったが、本件火災当日の朝にはまだ決済されておらず、決済されたのは同日夕刻であった。しかも、同原告は、一方で同日満期の手形を不渡りにしながら、保険料相当の資金のみは取引銀行に持参しているのである。

保険料の支払いが現金でなく手形や小切手でなされた場合には、これが金融機関の通常の営業時間内に決済されて始めて保険料の支払いがあったとみなされることは、これらが代物弁済でなく、「支払いのために」交付されることからも明白である。

(四) さらに、原告らは本件火災が失火であると印象づけようとするが、本件火災は何者かによる放火である。出火場所は事務所裏側であるから、工場内部の漏電や石油ストーブの消し忘れなどの原因は考えられず、煙草の不始末や機械のモーターの過熱等によってウレタンが燃え上がることもまず有り得ないから、出火原因は放火以外にはない。

にもかかわらず、原告甲野が出火原因を煙草の投げ捨てやモーターの過熱に求めようとしていたのは不自然という外ない。

(五) 原告甲野は、本件火災前夜の行動について、翌朝納品する商品の製造のため金光工場に出向いていたというが、同工場内の機械は到底作業のできる状況になかったことは、右火災の翌日被告の依頼した鑑定人が直接確認しているところであって、同原告の説明は虚偽である。

以上の諸事情に照らすと、本件の保険契約は原告らが保険金の不正取得を目的に締結したものといわざるを得ない。

2  仮にそうでないとしても、本件の保険事故に関しては、店舗総合保険約款に定める次の免責事由があり、被告に保険金の支払い義務はない。

(一) 重過失による火災

本件火災の原因は、原告甲野が吸っていた煙草の火を完全に消すことなく事務所内に放置して外出したことによるものと推認される。これは「保険契約者、被保険者の重大な過失によって生じた損害」(保険約款二条)に該当する。

(二) 提出書類の不実表示

原告らは、平成二年二月二六日に罹災商品明細書を提出したが、その内容には、例えば、保険の目的物に含まれない物品を記載したり、保険の目的物に含まれる商品等でもその数量を実際より過大に申告するなど、不実の記載が多数見られる。これは「正当な理由がないのに、提出書類に不実の表示をしたとき」(保険約款二六条四項)に該当する。

(三) 火災発生後の保険料の支払い

原告らは、本件の保険料を小切手で支払ったが、右小切手が決済されたのは、本件火災当日の夕刻であった。ところで、原告らの振り出した同日満期の約束手形は、いずれも不渡りとなっていることからすると、原告らは、本件火災発生後にあわてて保険料相当の小切手資金のみを調達して、右小切手の不渡りを免れたものと考えられる。

保険料受領前に保険事故が発生した場合には保険者は免責されることは商法六四二条・六八三条に規定されているところであり、本件の保険約款二条四項も同旨である。

四  抗弁に対する認否

いずれも否認し争う。

第三  証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一  原告らと被告間の損害保険契約の存在(請求原因1項の事実)及び保険事故の発生(同2項の事実)については当事者間に争いがない。

第二  保険金の不正取得目的の有無

一  〈証拠略〉によれば、次の事実が認められる。

1  本件火災の第一発見者は夜間取締り中の警察官であったが、同人が火災に気付いた際、炎が出ていたのは道路から奥まった本件建物の事務所裏側付近であった。その付近は波板で囲まれた工場への入口にあたり、粉砕機や送風機が設置されてはいるものの、工場の操業が終れば火の気のない場所である。

2  本件火災発生前夜の午後一〇時頃、原告甲野の従業員乙川が操業用の主電源を切って退社したので、右火災発生当時、工場内は通電されていなかった。原告甲野は、消防職員の事情聴取に対し、右前夜事務所内で残業をしながら喫煙はしたが、本件火災当日午前零時過ぎ頃、同事務所を出る際、煙草を消して出たと供述していた。

3  右事務所の裏側は道路から一〇メートル近くも奥まっているため、通行人や通行車両による煙草の投捨てが出火原因とも考え難い。そのため、消防職員や警察官も、本件火災の出火原因を特定できず、出火原因不明として処理した。

右事実からすると、本件火災の出火場所は本件建物事務所裏側付近と推定されるが、同所は本来火の気のない場所であり、当時の操業状況や工場の管理状況からみて、本件火災はいわゆる不審火であったと考えられる。

二1  ところで、〈証拠略〉によれば、原告甲野は、本件火災の翌日(平成元年一二月一日)に消防職員の事情聴取を受けた際、右火災前後の行動等を次のように説明していた。すなわち、本件火災の前日午後一〇時過ぎ頃、知人の鈴木が前記事務所を訪れ午後一一時半頃まで居たこと、その後従業員の山本朝子が打ち合わせに来て本件火災当日の午前零時頃帰ったこと、同原告は、同日午前零時一〇分頃、仕事のために金光工場に車で向かい、同日午前零時四〇分頃、右山本から電話で食事に誘われたので、同日午前一時一〇分頃金光工場を出て本件建物(里庄工場)に向かったが、その途中で本件火災に気付いたこと、出火原因については事務所内の石油ストーブや煙草が原因とは考えられず、工場内部の原因より通行人その他部外者の行為による可能性が高いこと等。

2  そして、原告甲野は、その本人尋問において、右出火当時里庄工場から金光工場に向かった理由等につき、取引先のA会社に本件火災当日の朝必着で納品しなければならない畳マットを徹夜で製造するために、作業に必要な裁断機のある金光工場に出向いたこと、山本朝子も、右同日朝別会社に納品する枕のクッションをミシンで縫製するため、里庄工場に残って徹夜で作業をする予定であったこと、ところが、本件火災の発生により予定の徹夜作業が出来なかった等と供述していた。

3  ところが、山本朝子は、本件火災時の状況につき、当時はスナックを経営する傍ら、閉店後原告甲野の縫製作業を手伝っていたこと、本件火災当日、金光工場に電話をして同原告と食事の約束をした後、あまり遅いので再び同工場に電話をしたが不在であったこと、そこで、里庄工場に二度電話をすると、いずれも話し中であったこと、その後暫くして本件火災に気付いた旨を証言し、原告甲野本人の前記供述とは明らかに異なる供述をしている。

右山本証言が真実であれば、本件火災発生当時、原告甲野は里庄工場(本件建物)事務所に居た蓋然性が高いことになる。

4  〈証拠略〉によれば、本件火災発生の翌日(平成元年一二月一日)に被告の社員が右山本の案内で金光工場を検分したところ、同工場には材料のウレタンが工場一杯に高さ二メートル以上も堆く積み上げてあり、同工場の奥にある裁断機は右材料に埋もれて到底使用できる状態にはなかったことが認められる。

原告甲野が供述するように、同原告が現実に同工場の裁断機を使用して徹夜の作業をしようとしたのであれば、同原告が同工場に居る間に右裁断機付近の材料が取り除けられる等作業の形跡が残っていなければならないはずである。

しかし、金光工場内の状況が右のようであるなら、作業の形跡は見られず、本件火災発生当時、原告甲野がはたして同工場に居たのかは疑問である。

この点に関する原告甲野本人の供述は、追及されるに従って次第に曖昧になり、畳マット製造の機械は里庄工場にもあったが材料は金光工場にしかなかったとか、金光工場の機械の方が性能が良かった等と言い繕うのみで、はたして金光工場の裁断機を現実に使用しようとしたのか、ひいては、現実に本件火災当時金光工場に居たのかについて、納得できる説明はなされていない。

5  のみならず、原告甲野は、本人尋問において、本件火災の原因につき、出火推定場所に最も近い粉砕機のモーターの過熱である可能性が高いことを初めて供述した。この点は、前記のように、消火直後の事情聴取の際にも述べていなかった点であるが、右可能性が高い根拠として、同原告は、過去に右粉砕機が作動中二度にわたって過熱して、一度は出火した経験があったことを挙げている。

しかし、右粉砕機につき過去に発火事件があったとの客観的な裏付けはなされていない。のみならず、出火場所に近い機械にそのような事故があったのであれば、通常はまずそれが出火原因として思い当たるにもかかわらず、右事情聴取の際、原告甲野が何故その説明をしなかったのかについて、合理的な説明は一切なされていない。

そもそも、右火災の前日午後一〇時頃には本件建物の操業用の電源は切られていたのに、それから二時間以上経過後に過熱による発火が起きたとするのは、いかにも不自然な説明である。

三  さらに、本件の保険契約締結の経緯についても、〈証拠略〉を総合すると、次のような不自然な点が認められる。

1  原告甲野は、昭和六三年一月二五日に本件建物を含む三棟の工場とそこに収容してある商品等につき、被告との間に保険金額を三二〇〇万円、保険期間を一年間とする普通火災保険契約を締結し、保有する車両二台についても、被告との間に乗用車につき保険期間を平成元年三月二〇日まで、貨物車につき保険期間を同年五月三一日までとする各自動車保険契約を締結していたが、保険代理店からの契約更新の勧めを断って、いずれも各期間満了により失効させていた。理由は保険料の支払いが困難であるとのことであった。

2  ところが、原告甲野は、平成元年一一月二五日になって突然前記各物件につき改めて保険契約の申込みをし、同日直ちに、本件建物を含む工場とそこに収容してある商品等(新たに保険の対象に加えた機械類を含む)につき、保険契約者兼被保険者を原告らとする本件の各店舗総合保険を締結して、原告甲野に関しては保険金額を六七〇〇万円に倍増し、原告会社に関しては新たに保険金額を六五〇万円とし、保有する貨物車二台についても保険期間を一年間とする自動車保険をそれぞれ締結した。

のみならず、原告甲野は、同じ日に、里庄町農業協同組合に対しても、本件建物を目的とする火災共済契約を申し込み、直ちに保険金額を一〇〇〇万円、保険期間を一年間とする同契約を締結し、即日保険料を現金で支払った。

なお、被告への右火災保険料(合計一二万二七〇円)はいずれも原告甲野振出しの小切手二通で支払われた。

3  右の小切手は株式会社中国銀行金光支店を取引銀行とするものであったが、原告甲野は、すでに平成元年一〇月一一日に資金不足で手形不渡りをだしており、その後も手形や小切手の決済ができず、同年一一月六日から同年一二月五日までの間取立てに回された手形や小切手は、いずれも依頼返却の手続きをとっていた。中には同年一一月三〇日の本件火災当日に右手続きをしたものもあった。

4  しかるに、本件の保険料支払いのために振り出された小切手のみが決済されたのは、次のような経過からであった。すなわち、原告甲野から右小切手を受領した保険代理店では、同年一一月二七日(月曜日)に株式会社トマト銀行を通じて右小切手の取立依頼をし、同小切手は同月三〇日に前記中国銀行金光支店に送付された。しかし、同原告の当座預金には決済資金がなく、同支店では資金不足の旨を同原告に連絡したが、同日午後三時までには資金の振込みがなされなかったため、右小切手を不渡りとして処理した。ところが、同日午後六時前になって、何者かが額面金額を同支店に持参したので、同支店は不渡り小切手の買戻しとして扱い、翌一二月一日付けで右トマト銀行に取立入金の処理をした。

なお、右決済資金を持参した者につき、原告甲野は、自分ではなく、誰がしたのか思い当たる者もいないと述べている。

四1  また、〈証拠略〉によれば、本件の火災保険の目的別内訳は次のとおりであった。

(一) 原告甲野

鴨方工場内の商品・原材料等 五〇〇万円

金光工場の建物 一二〇〇万円

同工場内の商品等 五〇〇万円

同工場内の機械 一〇〇〇万円

里庄工場の建物(本件建物) 二〇〇万円

同工場内の商品等 五〇〇万円

同工場内の機械 二二〇〇万円

付設の食堂 二〇〇万円

事務所 一〇〇万円

付近の野積み原材料 三〇〇万円

(二) 原告会社

本件建物内の商品等 一五〇万円

付設倉庫内の原材料 三〇〇万円

食堂内の商品 二〇〇万円

右内訳から判るように、本件の火災保険は本件建物内の機械に相当な比重を置いて掛けたものであった。なお、前記のように、右機械については従来保険の目的とされていなかったが、本件で初めて保険の対象とされた。

2  〈証拠略〉によれば、原告甲野は、本件の保険契約を締結するにあたり、前記機械類を新品価格で評価をして保険金額を決めたが、実際には、本件火災により被災した機械類は、殆ど昭和六一年から昭和六二年にかけて中古で購入したものであり、課税を免れるため固定資産台帳にも記載せず、税務申告の対象にも挙げていなかったこと、そして、原告らは、本件火災による機械・商品等の被害額を、次のとおり、被告に申告したが、いずれも裏付けの確認が難しく、過大評価の疑いが残るものであったことが認められる。

(一) 原告甲野

原材料・商品合計 七三三万二〇〇〇円

機械合計 一二四〇万円

建物(解体費用を含む) 六七五万一〇〇〇円

(二) 原告会社

商品合計 六三三万五〇〇〇円

五  加えて、〈証拠略〉によれば、本件の保険契約締結当時、原告甲野は、国民金融公庫、笠岡信用組合、岡山県信用保証協会の金融機関に対して総額四〇〇〇万円以上の負債があり、加えて、取引先にも一〇〇〇万円を超える債務を負っており、その返済に苦慮していたことが認められる。

六  以上一ないし五で認定した事実関係に基づき判断するに、原告甲野は、本件の保険契約締結当時、相当多額の債務を抱えて経営に行き詰まり、右締結直前の平成元年一〇月には手形不渡りをだして倒産寸前の経営状態にまで陥っていたこと、そのため、本件建物等への従来の火災保険は、保険料の支払いに苦慮して、かなり以前に期間満了によって失効させていたこと、にもかかわらず、本件では、保険代理店からなんら勧誘がないのに、原告甲野の側から、急に、保険金額を倍増するとともに新たに機械類をも目的とした火災保険への加入申込みをして、即日契約締結及び、しかも、同一日に重ねて農業協同組合の火災共済にも加入する等、本件の保険契約締結の経緯には不審な点が認められること、そして、本件の保険契約締結後わずか五日を経て現実に本件建物から出火して保険事故が発生したが、右火災発生前後の原告甲野の行動には不自然・不合理で作為的な点が見受けられこと、さらに、本件の保険契約締結の前後を通じて、原告甲野は、当座預金の資金繰りがつかず、幾回となく、手形や小切手の依頼返却の手続きをとっていたのに、火災共済保険の保険料のみは即日現金で支払い、被告への火災保険料も一旦は小切手で交付し、本件火災発生後に急遽不渡り小切手の買戻しの方法で決済する等、保険金の取得を何よりも優先した形跡が顕著であること、また、被害申告の内容も実額以上に過大に損害を評価している疑いが濃いこと等が認められるのであって、これらの事情を総合勘案すると、本件の保険契約は、原告甲野が実損以上の保険金を不正に取得する目的で締結したものと推認するのが相当である。

このような目的で締結された火災保険の支払いに被告が応じることは、火災保険制度の持つ射倖性を助長し、同制度の悪用を是認することに他ならないから、本件の保険契約は公序良俗に反し無効というべきである。

被告の抗弁1は理由がある。

七  してみると、原告らの本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第三  よって、原告らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官小原卓雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例